心が弱めな若手SE(仮)のあれこれ

平穏な人生の運用管理

【書評・考察・レビュー】ラランド ニシダの「不器用で」読んだら、身近な不器用な人を抱きしめたくなった

アラサー1年目のしがない在宅OL

すーです。

 

ラランドのケツ粉瘤担当 文豪ニシダが書いた本

「不器用で」を読んだので感想書きます。

 

面白かった。

 

 

 

★目次

 

概要

中学生、高校生、大学生、社会人、30代の教授

5人の不器用な人達と、その周りの人が繰り広げる不器用エピソードのアソート。

 

共感できるやさしいプレーンな不器用さもあれば、

考えただけでも恥ずかしくなるような酸味の効いた不器用さ、

グロテスクで悍ましく苦々しい不器用さ、

愛おしくて、全力で包み込みたくなるほんのり甘い不器用さもある。


文体は読みやすい。

YouTubeやLINE、チャット、流行りのサウナ(昔からあるけど)など具体的で今っぽい描写があったり、

風景描写や、登場人物の心情・感覚の比喩が独特だったり(虫歯のグロ描写など、読んでて想像力が失せるものもある)

令和で活躍する芸人の書く文学とは、こういうものなのか〜と感じさせる。

 

煮出した紅茶色をした夕陽が僕たちの右頬を照らし、同時に顔の上に深い影を作った。

-本編『遺影』より

 

お気に入りの話

アクアリウム

白んだ人差し指の上の小さな赤い点がガラス細工を作るように膨れ、赤い球体になる。臨界点を迎えた球体はその完成された形を崩し、液体に戻って指の指紋に沿って流れ落ちた。

 

生物部に所属する中学生。

基本やる気ないし劣等感も強め。

同じ部にいる同級生 (波多野)を見下して、「自分の方がまだマシ」と思うことで自己肯定感を保っている。


“あるとき、部活の実験で魚を解剖していると

魚の胃から○○が発見される。そしてその魚を....”

っていうサイコ展開がミステリーぽくて面白いんだけど、オチは文学です。

 

起承転結の「結」を、特急電車の中で読んでいて、思わず泣いてしまった。

自分の卑劣さに気付かされてハッとする、

順位なんてつけること、とっくの遠にやめたけど、少し身に覚えのある話でつらくなった。

 

以下私のエピソード<読まなくてもいいです>

小学生の3年の頃、みんなから避けられて孤立していたノッポの男の子(以下ノッポくん)。持病で脱毛と色素沈着した顔が不気味だった。服装からして、家も裕福そうではない。

みんなで輪っかになって手を繋ぐ時も、誰も彼の隣に行こうとしない。

そういう扱いをされてもいい子なんだって、当時の愚かな私は思っていた。

 

「○○(ノッポくんの名前)しね」と何も考えずに、友達の自由帳に書いた。嫌なことをされたわけでもないのに。

それを見た男子が「うわ、最低じゃん」というので、焦って本人に直接、自由帳の中身を開いて見せて「ねぇこんなこと書いちゃったけど、本当は思ってないからね?ごめんね。許してくれる?」と聞き

今考えたら、理不尽で自分勝手で最低なことをした。

彼に言わず黙って消せばよかったし、そもそもそんなこと書く必要なかった。

いじめたやつは忘れるというけど、今でも私は覚えてる。

後悔している。

いじめを指摘された恥ずかしさもそうだけど、

傷つける必要のない相手を傷つけてしまったことに対して。 

 

みんなの輪っかに入れなくて、先生に優しく手を繋いでいたもらっていた彼を思い出す。

ふだんは全然喋らないのに、私が自分勝手に許しだけ請おうとしたたら「え、いいよ」って小さい声で言ってくれたことを思い出す。

ほんとに死にたくなるし、

あの時に戻れるなら、彼とちゃんと手を繋ぎたい。

 

そんな卑劣さを持ち合わせていた、 

過去のものだと思っていた、

自分の中の忘れられていた部分が疼いた話でした。

 

 

焼け石  

女子大生の主人公はスーパー銭湯の男性用サウナの清掃バイトをしている。

人というのは服を着ている時と着ていない時では別の生き物のようだ。どれだけ威厳のある人でも、たとえば大金持ちとか権力者とかだとしても、服を着ていなければ、その一切を持っていないように思われる。

利用客として、女性の脱衣所にいる時にはそうは思わなかった。異性だから感じることなのだろうか。

↑男なのにこの感覚を想像できたニシダすごくないか?

 

今回の短編集で唯一語り手が女性の話。

女性の私が読んでいて違和感はないが、結構さっぱりした性格な印象。

世渡り上手で不器用さをあまり感じられなかったが、最後まで読むと「彼女なりの不器用さ」が分かる。

さっぱりした性格の人にありがちな

「あえて蓋をしているせいか、自分の感情や感覚に鈍く、知らず知らずに蓄積」する人。

そしてそういう人は、いつか必ず爆発する時が来る。

 

もう1人主要な人物がいる。同じバイト先にいる後輩の滝くん。

アクアリウムの波多野とは違った方向で、周りから浮いている。けど根はまっすぐで優しい子。

真っ直ぐが故に不器用で勘違いされやすい。

〈そういう人を抱きしめたくなる感覚は、一定の人間に備わっているのかな。少なくとも私は持っている。〉


大学生の話なだけあって、エモい仕上がりになっている。

エモい...「ありふれたチープなことも、その最中では特別な瞬間に感じてしまい陶酔している様子」という意味合いで私は使っています。

ストーリー自体が"エモい"わけではなく、

私の中で「大学生=エモい」みたいな方程式が出来ちゃってるから、そういう風に感じただけかも。

まあ、ベランダで煙草とSEXの描写があれば「エモい」って言ってもいいか。

 


濡れ鼠

主人公の大学教授が、12歳離れた年下の彼女と同棲している。

 

村上春樹の短編集の一編を読んでいるような感覚だった。

淡々と話が進むところ、主人公が几帳面で小綺麗な中年であるところ。

他の収録作品とはまた違う、落ち着いたトーンで話が粛々と進んでいく。

はずだった。


この物語りに出てくる教授は、

「年上だから」しっかりしないと、

「年上だから」我儘は言えない、

そんな抑圧に常に晒されている。

 

物語の終盤は、タイトルの意味がわかるようなドラマチックな描写が印象的。

メロドラマかよ!ってツッコミたくなる。


内向的で几帳面な教授と、だらしなくて抜けてる彼女が、自分の彼と私と重なる。

 

彼との予定があったにもかかわらず

私が地元の子達とオールした翌日

いつもは全く感情的にならない彼が、

珍しく機嫌を損ねて泣き出してしまったことを思い出した。

 

決して束縛しないけど、本当は気にしないふりをしてたのかな。

我慢させちゃってたのかな。


素直になれない不器用な男心を垣間見て、

申し訳ない気持ちと、嬉しい気持ちが入り混じる。

 

 

「お気に入れない主人公」が出てくる話

 

テトロドトキシン

主人公は虫歯を育ててる社会人。

 

「自家製の毒を口で作ってるって自分では思ってる」

しばらく咲子は真顔で考え込んだ。

「なんかフグ毒みたいだね」

テトロドトキシン

 

セルフネグレクトで死期を早めようとしてる。

虫歯があると病気になりやすいからと、治療を放棄することで「消極的自死」をしているのだとか。

 

僕の口は臭い。肉の腐るような臭いがする。

 

山道の脇に小鹿が一匹横たわっている。

 

首元の辺りは小動物に齧られたのか、錆びたような赤茶色が栗色で泥まみれの毛皮の裂け目に露出している。その裂け目に我先と食い込み、肉を食い破ろうとする乳白色のカシューナッツのような蛆虫が蠢く。

 

そんな体験したことのないイメージが、マスクの中で吐いた息を鼻から吸ったとき思い浮かんだ。

 

 

”虫歯で自殺してるんだw”とか言っちゃう痛さや、

マチアプで女食い荒らすのが趣味なクズ系の不器用さで救いようなくて、

現実世界にいたら1番線を引きたくなるヤツ

男目線だと、違った感想になるのか。

それとも自分が主人公と同年代の社会人だから、厳しい目で見てしまうのか。

とにかく嫌いな要素が詰め合わされているキャラクターだった。


キャラは嫌いだけど、ストーリーは好き。

同窓会の途中でくる、辞書作りが趣味のおもしれー女同級生との化学反応が面白かった。

おもしれー女とクズのリアルな会話、どこかで身に覚えがある。

 

最後は希望が湧いてくるポジティブなオチでよかった。

 

気になったら皆さんもぜひ読んでみてね。